無垢なプリンセス

父が、なぜ急に結婚しろなどと言いだしたのか、ガブリエラには皆目わからなかった。
父が結婚相手として家に招いたのは、マルドラビア公国プリンス・リカルド。
途方もなくハンサムで魅力的な男性だ。
とはいえ、十九歳なのに結婚を無理強いされるなんてごめんだ。
幸いリカルドにも結婚の意思はないらしく、ガブリエラはほっとした。
だがその夜、事態は一変する。
ディナーの最中に、父が急に倒れたのだ。
彼はいまわの際に言った。
「一カ月以内に結婚すると約束してくれ」死にゆく父を前に、ガブリエラは結婚の誓いをたてるしかなかった。
バレエ団の一員として中東を訪問中、リアナは何者かに誘拐され、白人奴隷としてバスラーム国の残忍なスルタンに売りとばされた。
スルタンはさっそく、ある男性客のベッドの相手をせよと彼女に命じる。
客は、キャメロン・ナイトというアメリカのビジネスマンだ。
ここから逃げるために、同胞である彼に助けを求めよう。
彼女はキャメロンと二人きりになれるときを待った。
だがスルタンがリアナを差しだすと、意外にも彼は拒絶した。
だめよ、ここで拒まれては脱出するチャンスを失ってしまう。
そこでリアナは彼をわざと嘲って自尊心をくすぐり、寝室へ誘った。
キャメロンがスルタン以上に危険だとは、考えもせずに。
レイチェルとジャックの夫婦仲は、二年も前から冷えきっていた。
もう夫と再び愛しあう日はこないのだろうか。
そんなふうに思っていたある日、ひとりの女性が家を訪ねてきた。
ジャックの会社に勤めるというその女性社員は、胸元を強調したセクシーな姿で、得意げに言い放った。
「私、ジャックの子を身ごもったの。
早く彼を自由にしてあげて」女性を決然と追い返したものの、レイチェルは激しく動揺した。
彼女の話は本当なの? 確かにここ最近のジャックの様子は変だ。
だとしたら私はどうしたらいいのだろう……愛する夫を失わないために。
レイチェルは悩んだ末、ある計画を胸にひとり寝室へ向かった。
陪審員として裁判所を訪れたサンチアは、初対面の男性から敵意もあらわに話しかけられ、困惑した。
彼の名はアレックス・セイバー。
敏腕と噂の弁護士だ。
二年前、サンチアは事故に遭い、事故前の一年間の記憶を失った。
話を聞くと、どうやらその期間に彼とサンチアは出会ったらしい。
口ぶりからして、二人はただの知り合いだったわけではなさそうだ。
サンチアが事の次第を説明すると、疑わしげだった彼もついに納得し、そして言った。
君の過去を取り戻す手助けがしたい、と。
記憶が戻ることはないと諦めかけていた彼女は、その提案に心そそられた。
一方で、なぜか胸にわき上がる不安を抑えきれなかった。
チャーリー・ラドリーが今度の外科部長ですって? 毎回違う女性とゴシップ誌をにぎわせている、あのラドリー男爵が? きっと理事たちは患者のことより病院の体面を考え、彼を外科部長に選んだに違いない。
ソフィーは腹が立ってしかたがなかった。
そもそも彼女は忌まわしい過去の出来事のせいで、上流階級の傲慢な男性を心から憎んでいた。
だが、実際にチャーリーに会ってみると、ソフィーはひどく困惑した。
真っ青な瞳と心を揺さぶられるような笑顔、仕事に対する真摯な姿勢。
この魅力的な男性に、私はいつまで抵抗できるかしら。
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